peep pea poop

知人への生きています報告 あるいは将来的な墓標

ドイツへ向かう朝

9時には就寝したので、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。あたりはまだ暗い。時間を見ると8時だった。時計の設定を間違えたか...?と混乱しながら現地時間を見ると、8時であっている。トルコはサマータイムを年中やっているようで日の出が遅い、のだそうだ。日付変更線の定義なんてただの政治的判断である。 

 

8:30くらいになるとだんだん空が明るくなってくる。ホテルにもハマムが付いているらしいのを昨晩知ったので、朝食前にふらっと立ち寄ってみた。とても広い空間なのにまったく人気がない。不安なので着衣のまま一通り見て回ったが、誰もいない。面倒になって退出した。

 

そのまま食事会場に向かう。しかしチェックイン時に指定された階の会場は真っ暗で、フロントに聞きに行くと、「ああ、変わったんだよ。この階の端だよ。」と悪びれることもなく明るい返答がロビーに響く。そういえば、こんな感じだったな。

 

朝食ビュッフェ会場の中心には15種類のチーズと10種類のハムと5種類のオリーブと大量の枝つきハーブと巨大な巣蜜と巨大なカイマクと、、、といかにもちょっと良いターキッシュブレックファーストという感じで良かった。伴侶がいたら喜んで全種類食べ、後からはち切れそうな腹に苦しんでいただろう。キッチンスペースのホットミールには私の好物であるウズガラスジュクやチョルバもあった。ビョレッキもあったし、その場でギョズレメも調理されていた。

もうこの辺のカタカナ固有名詞の説明を付加する気概がないので検索してトルコの食べ物に詳しくなっていただければ幸いである。

 

あとは、トルコ式の2段になったポットの巨大なものも置いてあった。上のケトルから濃厚に煮出された紅茶をカップの半分ほどまで入れ、下の段の蛇口からお湯を足して好きな濃度にする。

これを飲みながらブログを書き連ねることにする。

 

朝食は10時までらしいのだが、9:30になっても続々と人が増えてくる。トルコ人が10時きっかりに食べ終わって全員退出することはまずないので、一応時間設定があるがゆるゆる営業なのだろう。

と思っていたが、10時になるとスタッフはそそくさとビュッフェを引き上げ始めた。数人の客が立って、片付けスタッフの少し前に立ち、食べ物を追加で取りだす。

 

私の中の日本人性がだんだん後ろめたくなってきたらしいので、いくつかまるごとのフルーツを手に取って部屋にもどる。あとで空港で食べよう。

 

部屋に戻るとひどく散らかっていて、誰がこんな有様に、と思ったのだが自分しかいない。12時のチェックアウトまでに片付けることにする。

 

 

12時ギリギリにチェックアウトし、タクシーに乗る。

地図を見せながらメトロの駅名を言ったのだが、運転手のおじさんは老眼だったようで、違うメトロの駅に連れてこられた。カフェに行きたかったのだけれど仕方がない。

タクシーはまた最低料金より低かったらしい、メーターの清算ボタンが押されると金額があがる。ホテル前にあったのがミニバンタクシーだったので、少し高い。

 


そのままメトロに乗って空港に向かう。地下鉄はかなり深いが、東京の大江戸線のようにエスカレーターが途中までしかない、などということがなくて安心する。東京人は、途中までで終わるエスカレーターのような憂きものを許容しすぎなんじゃないかと考える。あれに慣れるべきではない。せめて案内板でも出せばいいのに。往々にして、階段を使う用意のない者がエスカレーターを使うわけだから。

エスカレーターは、上記の考えが頭をよぎり二、三周翻る余裕があるほどに長かった。

 


メトロもアンモニア臭がする。しかし広告や余分なアナウンスは少なく視覚のノイズは少ない。ブレーキ音のうるささは、イヤフォンで何とかなる。

視覚の煩さはかわしようがないから、日本の大都会が苦手なんだな、などと思う。

 

チェックインから搭乗までとくに出来事はなかった。本でも買おうかと思ったが最近の読書の捗らなさを考えると枕になるだけかもしれないと思ってやめる。リラが余っているから帰りに免税店で嵩張らない口紅でも買って使い切ろう。

 

これはゲート前での搭乗待ち時間に書いている。搭乗は始まっているのだがバスで飛行機まで移動するタイプなので、ゲート前で最終コールまで粘ることにした。

人々がコールと共にゲートに殺到してすごい列が出来ていて、そこに加わる気がしない。どうして狭い機内に早く入りたがるのだろうか。どうせ荷物は座席下に入るし通路側の席を取ってある。問題はない。

 

赤子がむずがっているのを母親がタマム、タマム、と宥めている。赤子はまったくタマムな様子ではない。

 

空港に着いたら、このドイツ行きに誘ってくれた仕事仲間が迎えにきているはずだが、果たしてあの人のことだからそううまくいくだろうか。楽しみだ。

 

最終コールがかかったのでゲートをくぐる。バスで待っていると鼻に大きなテープを貼った女性が乗り込んでくる。韓国に整形旅行に行く日本人女性のようなものか。

一日のみの滞在だったがホテルでも電車内でも1人ずつ鼻にバンデージを貼り顔を腫らせた女性を見かけた。トルコで鼻の整形が流行っているのは10年前から変わらない。私の低い鼻を触り羨ましがるトルコ女性に複数会ったことがある。

あなた方くらいのアーモンド型の目とすっきりした頬周り、丸い額であったなら、この鼻も映えるのかもしれない。

 

バスが動き出す。子供がパパ、パパと駄々をこねている。

急ブレーキとともに、尿意を感じる。トイレに行っておけばよかった。

 

飛行機前でバスを降ろされる。特に誘導の人間もいないし紐もはられていない。実質広大なコンクリート敷のスペースに解き放たれたとも言える。人々はわらわらとタラップに向かう。私は思い切り走り出したい衝動に駆られた。

 

ここで走り出していたら漫画か映画にでもなるのだろうが、私はそういう物語の主人公ではないのでおとなしく現実をやることにして群れの一員に加わる。席に着くまで時間がかかるのでフライトアテンダントに出発前にトイレに行っていいか聞いたら非常に軽快に許可が出たので席に着く前にトイレに滑り込む。そういえば全キャビンクルーがガタイのいいおじさんで、トルコの長距離バスを彷彿とさせる。ここでは、そういうものなのだろうか。飛行機も長距離バス化ということなのだろうか。

 

すっきりしたので頭が働く。チケットを取るときに確認し忘れていたが食事が出ないタイプの飛行機である気がする。カバンの中の食べ物を整理するいい機会だ。

 

飛行機はほぼ満席である。私の隣を含めてあと数席空いている。このまま出発準備に入ってくれないだろうか。扉が一旦閉まったと思ったらそれから五分くらいして2,3人乗ってくる。なんというか、トルコらしい。

 

結局隣の座席は空きっぱなしのようだ。窓際の客がホッとしたようにコートを置く。いいよおじさん、問題ない。アナウンスが入る。ドイツ南部まで2時間半ほどで着くらしい。ウラジオストクー大阪程度、ソウルー東京より少し遠い程度ということか。

 

クルーに何らかの聴覚の問題を訴えていた前の席のおじさんが、席の移動を許されて前の方に行く。すかさずその隣の真ん中の列だったおじさんが通路側に移動して、満面の笑みを奥さんに見せている。

しかしもし後ろの席の赤子の泣き声を避けたいという、訴えが認められているのだとしたら羨ましい。誰も悪くないのに皆嬉しくない状況であるから。飛行機の赤子問題が解決する日は、来るのだろうか。どれだけイノベーションが進んでもエコノミークラスの、乗客はずっとこうなのかもしれない。そんなことを思いつつ、飛行機がタクシーしだしたので一旦ここで筆を置く。

 

ドイツではすぐ人と合流する予定だ。今は言語野が冴えているが、数日かけて鈍く戻っていくだろう。