旅記

生存報告あるいは将来的な墓標として

言葉の通じない場所を求めて

ホテルのWi-Fiを使ってこれを書いているので、接続状況的に下書きや公開がうまくできなくてせっかく書いたものが消えた。悲しいので少しずつこまめにアップデートする。

 

トルコに降り立つのは4回目だ。

 

最初はイスタンブールで六週間ホームステイをし、2回目は国の主要都市を観光旅行し、3回目はボドルムにギリシャからフェリーで入り、アナトリア方面を通ってイランへ陸路で抜けた。4回目は、イスタンブールアタトゥルク空港で長時間トランジット客用の無料の観光案内バスに乗った。

 

ということは、今回は5回目らしい…。気づいていなかった。

 

なんにせよ現在、目的地ドイツへの途上である。翌日昼にまた飛ぶので一晩だけアジア側イスタンブールのランダムな場所を選んで泊まり、散歩でもしようと考えた。ゲブゼというところまで行こうかと思ったがペンディクというサビハギョクチェン空港から南に公共交通機関で1時間ほどの海沿いの地域のホテルをとる。ブティックホテルが多いということはおそらくリゾート地だがオフシーズンなので安いのだろう。

 

サビハギョクチェン空港はコンパクトで、その大きさに戸惑うほどではない。しかしATMや両替ブースはいくつも立ち並んでいる。(*この印象は出発時に覆る。チェックインカウンターがKまである、そこそこの規模の空港だった。)

 

 

一万円ほどのリラをATMでおろし、メトロへ向かう。メトロに降りるエスカレーターから強烈なアンモニア臭がして、なぜか、いい意味での身震いをする。異国に1人で来るのがかなり久しぶりであることを思い出し、楽しくなる。

 

メトロの切符売り場は自動販売機のみで、なぜか片道切符三枚セットかイスタンブールカードというチャージ制カードの購入かQRコード性のチャージ機能しかない。いや、私の理解が悪かったのかもしれない。しかし機械とじっくり向き合うのも時間の無駄である気がしたので、機械の、あるいは設計者の意図に乗っかって旅行者らしくイスタンブールカードを買う。カードが70リラ、その上に任意の金額をチャージする。200リラ札を入れて適当にイエスボタンを押していたらカードの値段以外が勝手にチャージされていた。したたかであると感じるが、事前リサーチもしていない気まぐれな訪問者の扱いはこれくらいで良い。

 

メトロはヨーロッパ規格なのだろう、フランスやドイツのものを彷彿とさせる。空港から乗っても全く混んでおらず、隣の駅くらいからマルマラ大学の学生かなにからしき若い人々が同量乗ってくる。

 

グーグルマップによるとメトロを降りたらバスに乗るらしかった。しかしイスタンブールのバスの難易度は高く、今まで自力で乗れたことはほぼない。そして今回も、失敗した。

メトロを降りて雨と風の中バスを探すが、マップ場にはバス停の詳細な場所は出ておらず、また通り過ぎるバスの番号にも目当てのものはない。

地元の人らしい女の人に聞き、彼女も誰かに電話までかけて教えてくれようとしたが結局風雨に負け、スーパーに寄ってからタクシーにのる。

 

やる気のない地元のスーパーで懐かしいナッツやドライフルーツ、インスタントスープを見つけ、嬉しくなったついでに買い込む。上にシミットの、屋台を見かけるが、今はパンの気分ではない。明日も見つけることができるだろうか。

 

タクシーを止めてホテルの名前を告げると運転手は3度大きくうなづき、運転席から斜め後ろのドアを器用に開けた。やたらと声の大きい陽気な人だ。私のトルコ語レベルは、トルコ語がわからないことを告げられる程度である。英語はできないか聞いたら「英語〜...?」と困り果てた反応が帰ってくる。これこれ、これが欲しかった。外国人観光客のほとんどいない地域でなんとか身振り手振りして理解してもらう体験。10年近く味わっていなかった感覚のように思える。

 

英語を第二言語とする人間のなかではそれなりの語彙力を獲得してしまってから、それが通じない場面で歯痒く感じるなどしていた自分の傲慢な鼻をへし折る機会が早速やってきて大変嬉しい。(ちなみに、英米で世界共通語であるはずの英語がつたない可哀想な人間として逆に優しく扱われるのは、また別の質の趣がある。)

 

それでも「スモーキング?」(タバコ吸う?、おそらく吸ってもいいよの意味)などと頑張って知っている単語を捻り出してくれる。

そうやって、すっとこどっこいなギリギリ会話の場となったタクシーはMT車で、狭い坂道をけっこうなスピードで進んでいく。おじさんは「カザフ?」と聞いてくる。これまでにトルコではモンゴル人、韓国人、タイ人という推測を受けたがそこにカザフ人が新規追加された。化粧っ気のないおたふく顔をしている人たちがいる国なのだろうか。行ってみたい。

 

日本人ですよ、と言うと御多分に洩れず「オォォ〜、ジャポン」という強い好反応が返ってきて、先人たちの積み上げてきた国家イメージに改めて感嘆する。

 

ちゃんとメーター車か確認して乗ったのに、初乗り料金より安かったのか、メーター料金より高い金額を取られた。しかしメーターの精算ボタンを押したら表示された金額ではあるし、多分嘘はついていない気がするのでそうなんだろう。そう信じておくことにしよう。

 

えてして本日の宿に到着する。ホテルは徒歩でくる客を想定していない立地と作りだったのでタクシーに乗って正解だったみたいだ。人気とやる気のないオフシーズンの巨大ホテルに、チェックイン時間ちょうどに到着する。海沿いだが残念ながら海側の部屋ではない。まあどうせめちゃくちゃ曇っている。とはいえ日本海を好んでいるのでこの天候のマルマラ海も楽しめたのかもしれない。

 

少し古いがしっかりとした作りのビジネスホテルのベッドに転がりしばし身体を休める。思ったよりも疲労を感じない。日暮れまでに徒歩で周りを散策したい、すぐに出かけようか。しかしアドレナリンのせいかもしれないのでとりあえずは怠けることを最優先事項とした。

 

一旦休むと決め込むと、身体が重くベッドに沈み込む感覚がする。せっかくトルコで一旦街に出る機会を作ったのにこのまま標準規格のビジネスホテルでこもって明日そのまま空港に直行することになりかねないな、そう思って目を閉じる。足が重い。着圧ソックス無しで長距離便に乗っていた頃があったなんて信じられない。

 

目の前に暗がりが広がると、勝手に騒ぎ出すのが我が脳である。そういえばすでに家を出て24時間が経過しているので連絡を入れた方がいいかもしれない。仕事のメールを返した方がいいかもしれない。そうおもってインターネットに接続しようとおもうがWi-Fiのログイン方法はどこにも書かれていない。一応今契約しているSIMカードは海外ローミングをしても2GBまでは無料らしいが、ドイツ(一応仕事のはずである)、そしてその後のボスニア(初めていくので勝手がわからない)のために容量を取っておきたい。

日本だと最近のホテルではテレビ画面に情報が表示されるので一応テレビもつけてみるが案の定そんなことはない。市民の討論番組を少し眺めてしまった。

フロントに電話をして聞いたら教えてくれた。全共有であろうログインアカウントで、ユーザーネームとパスワードが同じだった。なんなのだろうか、ログイン方法はあえて全体に周知せずパスワードを聞いた客室をメモするなどといったアナログなセキュリティなのだろうか。

 

そんなわけないな。